元 外資系広告代理店 営業マンのつぶやき

ちょっと早めの定年退職。さてとこれから何をやろうかな。

Vol. 10 - 生きるチカラと感謝の気持ち。

タイトルから想像される内容は、なにかものすごいことのように感じるかもしれないが、人間のハナシではなく虫のハナシなのである。虫といっても夏限定の蝉のハナシ。セミは一週間の命と昔から言われている。八日目の蝉(主演:井上真央/共演:永作博美)という映画があったが、内容はともかくまさに八日目くらいのセミと出会ったことを書いてみようと思う。学術的には蝉はどうやら20日~40日くらい生きるとも言われているらしいが、感覚的なハナシだがまぁいいとこ2週間くらいだろうと思う。

 

セミは寿命が近づいてくると平衡感覚をなくし、地面に仰向けになりそのまま一生を終える場合が多い。私はそういうセミを見つけるとだいたい左手の人差し指をセミのおなかに近づけてみる。するとセミは人差し指にガッチリと絡みつく。その後、右手で左手人差し指から離し空へ投げてみるとセミは元気よくはばたきながらどこかへ飛んでいってしまう。おそらく最後に近い飛翔だと思われる。こういうことを夏の終わりによくやる。虫をさわるなんでキモイとか、ちょっと変わっているとか人に言われるがまぁ気にしない。

 

先日、夜の8時ごろだっただろうかお仕事から帰宅したとき、わが家の玄関前に仰向けになったアブラゼミがいた。いつものように捕まえてみたがジジジジッと一瞬!鳴いたのでオスのセミであることが判明。そしてこの日は酷暑がひと段落し、雨が降っており涼しすぎる夜を迎えていた。

 

玄関前で仰向け!なぜか私はこのセミに親近感が沸き、妻に対して「涼しい夜にこのままにしておけば死んでしまう」と伝え、家の中で天寿をまっとうするまで保護ってやつをやってみようと試みた。もちろん家の中にはアブラゼミが好むサクラの木やケヤキ、モミの木といった大木があるはずもなく、保護したセミには悪いがそして好みではないことはわかっていたがパキラの木に近づけてみた。セミはピタッとパキラの幹にくっつきじっとしている。このまま死ぬのかなぁと思っていた。

 

ところが一時間くらい経ったころだっただろうか、セミは自力でパキラの木を登り始めたではないか。わが家のパキラの木は屋内だが2mほどある。最上部までではなかったが途中まで登ってひと休みをしているようだった。葉っぱの影からはセミと目が合い私たちのほうをじっと見ているようだった。

 

その後、さらに30分くらいだろうか、なんとセミが鳴き始めたのだった。屋内でのセミの鳴き声は強烈にうるさい。さすがにびっくりしたがさらに約20分間も鳴き続けた。いやはや元気になったのだと喜んだが、でも今晩だけの命かもなぁと思っていた。その証拠に20分間鳴き続けたあとはピタッと静かになり動かなくなった。明日の朝には床に落ちているかもと思い、その日は居間の電気を消して就寝した。

 

翌朝、セミはどうなっているのかな?とパキラの木を見に行くと昨晩と姿勢は変わらずじっとしている。私も勤めに出かける時間だったので妻に少し気にしてみておくようにと伝え家を出た。10時半ごろだったか妻から電話をもらい、セミが鳴き始めた!そしてパキラの木から窓ガラスのほうへバタバタと飛んでいる!どうしよう!!!との一報。これには驚いた!天寿をまっとうどころか、なんという生命力だ。今を一所懸命に生きているんだ!と感じ、ちょっと大変だけどセミをパキラの木に戻し、木ごとベランダに出して様子を見てくれないかと妻に頼んだ。

 

妻の話によるとベランダに出してからさらに一時間くらいだったらしいが、セミは鳴かずパキラの木を登ったり下ったりしてたそうだ。さすがに妻もずっと見ているわけにはいかず、家事を始め20分後くらいに見に行ったところ、どれだけ探してもセミは見当たらず、ベランダやその周りにも姿はなかったそうだ。妻曰く、「家事をしている間に飛び立ったんだと思う」とのこと。そりゃぁそうだ、いなけりゃ飛び立ったかカラスかスズメに食われたかだ。でもパキラの木は複雑に枝と葉が絡み合っているし、鳥たちが来てバタバタした気配もなかったし、鳥の捕食時にパキラの枝を折るなどのあわただしい行為も、捕食されたときのセミの鳴き声も聞かなかったとのこと。故に飛び立ったのではという推測だ。

 

まぁ仕方がない。でも勝手に保護と言わせてもらったが、ひと晩だけ家の中にいたセミがいなくなってしまったことは私も妻も少し寂しい気持ちにもなった。しかし同時に仰向けになって死を待つだけだったオスのセミが元気になり再び飛び立ったと考えるならば、これほどうれしいことはないではないか。さらに前述の通り、なんという生命力なのだろう!八日目の蝉にはならず、命の限り飛びそして鳴いてやる!という漢気すら感じるではないか。あえて彼と呼ぶが、彼はファイターだと。そして小さな体でひと夏しか生きられない儚い命だが、我々人間に生きる勇気と前向きに進め!という力強いメッセージを残してくれたような気がしてさみしさもあったがそれ以上に嬉しかったことも事実だった。2021年夏の終わりにちょっと清々しい気持ちになれたことを彼に感謝したいな。

 

しかしこのハナシには後日談がある。一週間ほど続いた雨も彼を保護し夜には止み、彼が飛び立ったた日と翌日は朝から夏の暑さが戻ってきていた。私はというと仕事のため朝、普通に家を出て普通に仕事をして夜に帰宅。その後、妻の話によると午前中、わが家の壁に一匹のアブラゼミがとまり、けたたましく鳴きだしたそうだ。しかもしばらくの間、時間にして一時間近くも鳴いていたとのこと。妻曰く、きっと彼があいさつに来てくれたんだよ、彼にしてみれば寒い夜「ひと晩かくまってくれてありがとう!僕は今夏で終わりだけど子孫たちが来年も遊びにくるからね、よろしく!」とおもいっきり言っていたように感じたとのこと。俺も激しく同感!思いもよらぬことでセミから前へ進むチカラ、生きるチカラ、強いチカラをもらえた2021年の夏。そしてその想いに感謝の気持ちを持った我々。本当に嬉しかったなぁ。来年も会おうな!と我々からも暑くも秋の気配を感じる空に向かって心の中で唱えてみた。★最後までご一読いただきありがとうございました。

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8月の夏空。長野県大町市にて。